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中高 おかえりなさい!武善先生!! ~アンケート編~

第63次南極地域観測隊 教員南極派遣プログラムへ参加され、南極から2回の南極授業を行ない、無事に帰国された武善紀之先生に今のお気持ちや南極での体験についてアンケートにお答えいただきました。
ひとつひとつの質問に真摯に向き合い、丁寧にご回答いただきました。

Q1.1番感動された事はなんですか?

野生のアデリーペンギンと会えたことです! ……と、普段なら答えていますが(笑)、折角の機会、いつもより真面目に答えたいと思います(少し抽象的になりますが)。情報科だからか、僕は休日も1日中コンピュータを触っていそうとよく生徒に誤解されるのですが、実は自然に触れるアウトドアがもともと好きです。長期休暇には、一人旅で熊野古道をひたすら歩いたり、離島を訪れたりしていました。ただ、それらはどんなに広大であっても「人間の世界に残された自然」でした。

南極で僕は、「広大な自然に放り出された人間」になりました。「美しい地球を守ろう」以上に、「この自然から、まずは自分達を守らなければ」、そう思わざるを得ないくらい自然は無慈悲で、冷酷で、壮大でした。日常生活を送る上ではまず経験しない機会ですが、人間は本来、常にそういった存在なんだと悟りました。

しかし、最初は何だか、自然の中の自分に疎外感を覚えていたのに(まるで自分が動物園の檻の中で飼育されている動物のような)、段々自分が自然の一部のように思えてきます。フランスの哲学者シュヴァイツァーは「生命への畏敬(自分は、生きようとする生命に囲まれた、生きようとする生命である)」という言葉を残しています(僕は情報科と同時に、公民科「倫理」を教えています)。出発前には今ひとつ納得できなかったこの言葉が、帰国後の今はすとんと胸に落ちます。これが、一番の感動だったかもしれません。

Q2.ペンギンをヘリに乗って見に行かれたそうですが、どのくらい近くで見る事ができたのでしょうか?

南極には環境保護のため、ペンギンは5m、アザラシは15m程度離れて観察するというルールがあります。ペンギンの方から僕に近づいてきてくれないかな、と期待もしたのですが、基本子育てに忙しいペンギン達は僕に目もくれず、全無視して僕の前を通り過ぎていきました(それも良かったです)。

ただ距離が離れていたとしても、水族館や動物園のような分厚いガラス、高い柵が間にありませんので、かなり間近に感じました。

Q3.先生は、3度の飯よりペンギンがお好きだとか。野生のペンギンは初めてかと思いますが、是非感想お聞かせ下さい

まず感じたのは、自然の中で生きる壮大さ、優雅さです。

写真について、それぞれの景色のどこにペンギンがいるか、わかるでしょうか。見渡す限り遮るもののない大自然、その全てがペンギン達のフィールドです。全てが豪快で、動物園や水族館でペンギンを追いかけるのとは全く違います。どうしても、写真集だとペンギンに寄った写真ばかり見かけますが、自然界で見かけるペンギンは広大なエリアにぽつん、と佇んでいます。

現地で思い出したのは、Pokemon GOでした。歩いていると突然ポケモンがふっと湧くように、「野生のペンギンが現れた!」が発生します(この経験からあらためて、Pokemon GO、本当に良くできているなと思いました)。

しかし、広大な自然は同時に厳しさも併せもちます。写真は、12月10日にしらせ船上で撮影したもので、広大な視界にたった1羽だけアデリーペンギンがいます。割れ目もなく、見渡す限りが氷の世界です。

実はこのアデリーペンギン、最初は群れで行動していました。左上のワイプ画像には5羽ペンギンが写っていますが、このペンギン達と一緒に行動していたのです。しかし、移動速度が1羽だけ遅く完全に離されてしまったのでした。途方に暮れたように暫く鳴いていたアデリーペンギンは、方角を見失ったのか他の5羽とは反対方向に進み始めてしまいます。氷の割れ目もなく、氷上では餌も取れません。無事にルッカリーまで戻れていれば良いのですが……、トウガモに襲われる雛鳥以上に、僕が自然の厳しさを感じた瞬間でした。

そして、優雅さと厳しさを併せ持つ自然で生き抜くペンギンだからこそ、逞しさにも溢れています。写真はスカルブスネスという地域でドローンを飛ばした映像に、説明を加えたものです。人間の足で90分近くかかる道のりを、ペンギン達はルッカリーに餌を運ぶために日々往復しています。足場は南極特有の露岩帯で、アップダウンも激しく、ゴツゴツとした岩ばかり。そこをお腹に餌を溜め込んで、毎日徒歩(もちろん泳ぎも兼用)で往復するのです。目つきも体つきも、動物園や水族館のペンギンとは随分違って感じました。

Q4.ペンギン以外の動物には会えましたか?写真などもあればご紹介下さい。

まずは、アザラシです。往路ではレアキャラだったのですが、復路では「トッテン氷河沖」にいる間、「アザラシ祭り」なんて隊員たちで呼び合うくらい、どこを見てもアザラシがいました。

ちなみに、南極によく出るカニクイアザラシやウェッデルアザラシはペンギンを捕食しないので、ペンギンとアザラシが一緒にいる場面もたくさん見られます。好奇心旺盛なペンギン達が、アザラシによくちょっかい?を出しています。

他によく遭遇する生き物は鳥です。ナンキョクオオトウゾクカモメ(通称トウガモ)は、あちこちで見掛けます。この鳥はアデリーペンギンや雪鳥の雛を食べてしまいます。ルッカリーの近くには必ずいました。カメラを構えた僕に突っ込んでくることもあり、この写真はその瞬間です。

また、こちらはトウガモですが、足元に“緑”があることにお気づきでしょうか。コケです。コケは動物ではありませんが、これまた南極に生息する貴重な“植物”です(写真のトウガモのように人間がコケを踏むことは、許されません)。見渡す限り雪・氷の白、岩・土の茶に包まれた大地の上に、緑のコケを見かける時は、結構感動しました。

Q4.オーロラも見る事ができたそうですね。とても羨ましい体験ですね。感想お伺いしたいです。

最初にオーロラを見られたのは、2021年11月29日、オーストラリアのフリーマントルを出港し、南緯55度を通過する直前でした。往路でオーロラを見られることはかなり珍しいそうです(ただ、往路で珍しく見られた分、復路では今回あまりオーロラが出ず……)。オーロラが出ると、海上自衛隊の方が「オーロラが出た。見学は艦橋で行え」と放送を入れてくれます。また、観測隊でも、電離層の隊員の方が「オーロラ予報」を出してくれていました。

アニメ「宇宙よりも遠い場所」にも、オーロラ写真に「本物はこの一万倍綺麗だよ」とメッセージが添えられるシーンがありました。本物は写真の一万倍綺麗に違いない…!とドキドキしながら見たオーロラ、正直最初は拍子抜けでした。「何となく空が明るいなぁ」という程度で、肉眼ではよく見えません。ところが、一眼レフで露光時間を長くして撮影してみると……、「何これ!すごい!」になります。オーロラを鮮明に映すカメラの技術に感動しながら、同じく一眼レフを持った隊員や乗組員の方達と、オススメの設定を議論しながら、ともかく写真を撮りました。

ただ、僕が遭遇したオーロラはやはりまだまだ薄いものだったようで、現在、昭和基地にいる隊員がSNSに上げているオーロラ写真を見ると、これはもう全然違います。それでも、「写真の方が綺麗に写る」はみんな口を揃えて言う言葉です(笑)

Q5.南極に『これを持ってきて、本当によかった!!』という持ち物はありますか?

弟から借りた一眼レフのズームレンズです。いわゆるバズーカレンズと呼ばれる500mmを持っていきました。メインでは18-400mmのTAMRONレンズを使っていたのですが、400mmと500mmの差は案外大きく、羨ましがられました。しらせ船上での写真の多くは500mmで撮影したものです。ただ、隊員の中には600mmを持ってきている人もいました。600mmもまた、格段に違いました。

~・~・~

色々な素朴な疑問に答えていただき、ありがとうございました。
続いて、色々な体験を通じて、帰国してからの先生のお考えなどをお伺いしたく、質問させていただきます。

Q1.南極へ出発前と帰国後で気持ちや行動で何か変化を感じることはありますか?また、生徒達からの反応や授業運営に変化はありましたか?

結果以上に自他共の選択の覚悟を大事に、尊重できるようになりました。

最低でも半年以上日本から離れることになる上、様々な準備も数年規模となる観測隊、当然どのプロジェクトにも強い思いが込められています。特に、63次隊はコロナウイルス感染拡大の影響で、62次隊からスライドした隊員も多く、2年越しの思いを皆が背負っていました。それでも現実は残酷で、計測装置や機器の故障、天候不順が観測隊には次々と襲い掛かります。進むべきか、戻るべきか。観測隊行動は、そんな選択の連続でした。

短い行動期間中には、選択を保留している時間も、ゆっくり考え込む時間もありません。少し悩んでいるうちに、事態も刻々と変化していきます。僕の『南極授業』というプロジェクトにすら、多くの選択が必要でした。そんな環境で大切になることは「正解を選ぶこと」ではなく、「意志を持って選択すること」です。結果的に、うまくいかなかった選択もあります。

でも、全員が同じ覚悟で選択を繰り返していますから、そのことに文句を言うことは互いにありません。また、覚悟を決めた人間は、切り替えが極めて早く、時間を最大限有意義に活用できます。

半年間、この空気の中で過ごした経験は、今、授業運営以上に、生徒会運営の中で活きています(今年、生徒会顧問チーフを拝命しました。ちなみに、内示は南極で受け取りました(笑))。コロナの感染状況を常に睨みながら進める『日出祭』は、まさに選択の連続です。決して大袈裟ではなく、自他共の覚悟を大事に尊重できる、観測隊と同じような空気感を学校に作り上げたいなと思っています。

日本に帰ってきて、多くの生徒が「交換日記見てました!」と話し掛けてくれました。卒業生も、よく南極の話を聞きに、会いにきてくれます。また船舶、無線、自衛隊関連、と生徒との話題の幅も大きく広がりました。南極コーナーを普段は小学校校舎と中高校舎の渡り廊下に設置していますが、たまに小学生がコーナーをじっと見ていて、声をかけると、小学生と話が弾むこともあります。

Q2.南極日記のやり取りを見させていただいていました。生徒からの質問や感想で一番印象深かったコメントはどんなものがありますか?

「日本でも雪が降っています」「体育の授業でバレーボールをやりました」みたいに日本の様子を伝えてくれるもの。「しらせカレー美味しかったです!」「ペンギンのガチャガチャ引きました!」みたいに南極との接点を探してくれたもの。全てが思い出深く、毎日、日記が届くのを本当に楽しみにしていました。写真では「ユニディから日出学園を撮影した写真」に「懐かしい…」と感動したことを、よく覚えています(笑)

「従兄弟に陸海空の自衛隊員が全員います」というコメントに、結構ハッとさせられたのを覚えています。僕にとっては今までとても縁遠い世界だった存在が、ほんの身近にある生徒もいる、ということにあらためて興味深く感じた瞬間でした。一緒にご飯を食べたり、走ったり、時には遊んだり、観測行動中は自衛隊が随分身近に感じられました。復路船内では、自衛隊の方に数学を教える機会なんかもありました。

南極授業後に届いた「私も含め、楽しんで生きていこうという気持ちにさせてくれる授業だった。」という感想には、自分が南極授業に込めた思いが伝わった、と本当に嬉しくなりました。コロナの影響で窮屈な生活はまだまだ続いていますが、それでも笑顔で学校生活を送る生徒達を見ると、幸せな気持ちになります。

Q3.南極授業拝見させていただいたなかで、様々な職種の方々と協力し合い、楽しそうな様子が非常に印象的でした。何日もの間、密接な人間関係を円滑に過ごすために心掛けたことはなんでしょうか?また、このような大きなチャレンジを成功させるために、今から生徒達にできること、伝えたいことはなんでしょうか?

心掛けたことは、おそらく「互いを尊敬し合う」ことです。

攻殻機動隊というアニメには、『我々の間にチームプレイなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすればスタンドプレーから生じるチームワークだけだ。』というセリフが登場します。これは少し言い過ぎですが、結構似たものを感じます。観測隊では基本1人1人が異なる仕事を担当し、みんな職種も仕事もバラバラです。それぞれが自分の仕事に誇りと責任を持って取り組みます。みんなで常に和気藹々、ということではなく、1人1人の頑張りを引きで見ると、見事なチームに見えるんです(ディスプレイが光の3原色で色を作るようなものです)。

互いを尊敬し合い、自分の背中を安心して任せられることが重要なんだと思います。互いを尊敬するとは同時に、「1人1人の個性を大事にする」ことでもあります。

「無理に人を自分に合わせようとしないこと」
「無理に自分を人に合わせないこと」

この2つは相互に認識がないと成り立ちません。観測隊に限ることはなく、職場でもクラスでも同じかなと思います。

「チャレンジ」の秘訣は「自分の評価を決めるのは、自分自身である」、これに尽きます。

南極ではありのままの自分が試されます。みんなが異業種ですから、業界で積み上げてきた地位や業績は通用しません。また、インターネットも満足には使えず、自分の腕一本で勝負することが数多くあります。明確な失敗や成功の判定を誰かが下してくれることもありません。プロセスから結果まで、全てが「自分自身との見つめ合い」です。

でも、日本で行う「チャレンジ」も多分同じもので、新しい何かにチャレンジするとは、価値基準のないことに挑むということです。そんな時に拠るべきものは自分だけ、だから「自分」を確立することがチャンレジする上でも一番大切になると思います。

中高生はまだまだ「自分」が揺らぐ時期です。外野の評価に振り回されず、自分の好きなもの、楽しいと思うことを探してみると、段々「自分」が見えてきて、「自分」が見えた先に、「チャレンジの成功」がきっと待っています。「自分」を見つけるための「チャレンジ」では、と思うかもしれません。これは鶏と卵の関係ですが、「自分を見つけるためのチャレンジ」については、行動した時点で全てが成功です!

Q4.ビデオの中で、3回行かれた方も登場されていましたが、武善先生ももう一度、南極へ行きたいと思いますか?

暑くて暑くて仕方がない日々を過ごしていると、より南極に戻りたくなりますが(笑)、今すぐに行きたいと思うことはありません。理由は2つあります。

南極では一から新たに何かを始めることは結構難しく、あらゆる場面において日本で身につけてきた知識や技能が試されます(野外行動、基地支援等など)。僕も、プログラミングやネットワークのスキルは随分と役に立ちました。それでも、アウトドアスキル(ロープワークとか料理とか)、機器操作のスキル(無線・特殊車両の運転)あたりは、もっといっぱい蓄えてくれば良かった、と痛感していました。

今、日本に帰ってマニュアル車の免許取得、無線局の開設、ネットワークの再勉強と色んなことに挑戦しています。もう一度南極に行くのは、もっともっと自分をレベルアップさせてからにしたいと思います。

そしてもう1つは、やっぱり僕は教育現場が好き、ということです。

教師の仕事、当然常に楽しいわけではありません。辞めたいな、辛いなと思うこともたくさんありますが、いざ現場を半年間離れてみて、あらためてこの仕事が好きなことを実感できました。残念ながら野生のペンギンは日本に居ませんが、南極にもまた、日出学園の生徒はいません。また、教員派遣プログラムには、南極授業だけではなく、帰国後の活動も含まれており、むしろ日本に帰ってからが本番とすら言われます。

日出学園の生徒達(そして、日出学園以外の子どもたちにも)に、今後も南極の話を語り続けて行きたいと思います。

~・~・~

武善先生の素敵なお人柄が溢れるアンケートのご回答でした。

アンケートのお願いする時に、突然のお声掛けにも関わらず明るい笑顔で気さくに対応してくださり、いろんな南極のお話を聞けたことが印象的でした。

お忙しい中、本当にありがとうございました。

★ おまけ – 先生のお気に入り写真ベスト5!!- ★

第5位:昭和沖接岸中のしらせ

昭和基地初上陸の日、雪上散歩が認められ、しらせの外に出て撮影した写真です。カメラはInsta360という広角アクションカメラを使いました。雪の白・空の青・しらせのオレンジの対比がとても綺麗です。

第4位:復路しらせで撮影した星空(※南極地域ではありません)

天の川もはっきり見えます。「南極」という広大な場所も、宇宙の星々から見れば地球上の小さな地域にすぎない。見渡す限り真っ黒な洋上で、地球と宇宙の広さ、自分のちっちゃさを強く実感した瞬間でした。写真そのものというより、この瞬間の印象が深く残っています。

第3位:19広場昭和基地看板前の写真

他にも映える写真は多いのですが、この写真はたくさん情報が詰まっていて、見返すと思い出深いです。ガムテープで貼った名札とか、雪が入り込まないようにぐるぐる巻きしたガムテープ、軍手にヘルメット、昭和基地の環境を結構1枚で語れます。

第2位:南極授業に関わってくれた皆さんと撮影した写真

普段の学校の授業は基本ワンマンですが、南極授業は本当に多くの方に支えられて出来ました。今見返しても、皆さんとても良い笑顔をしてくれていると思います。国内でも様々なサポート、本当にありがとうございました。

第1位:スカルブスネスで撮影したペンギン

筋肉のムキムキ感、迫力ある眼力が伝わってきます。このペンギン達も撮影者の僕には目もくれず、海へとそのまま向かっていきました。この写真は動画の切り出しで、元の動画を見ると、更に迫力がよくわかります。